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特別対談今西隆志&井上幸一×岸山博文(バンダイ・ホビー事業部)

ある日の『0083 Web』スタッフの会話。
「『0083』の魅力って何だろうね」
「うーん、色々あるけど、やはりメカの魅力は外せないよね」
「そうだよね。それに、ガンダムといえばガンプラだよね。何せガンプラで一番大きい商品はHGUCデンドロビウムだしね。つまりナンバー1ってワケ」
「そうそう、だからハチサンのガンプラの特集もしたいよね」
と言っていた矢先、とんでもない情報が舞い込んだ。「今西監督が企画の井上さんと共にバンダイ・静岡工場へ打ち合わせに行く!」
おおっ、神の啓示か。ということで、Webスタッフは、困り果てる今西監督をよそに無理矢理同行。その勢いでバンダイ・ホビー事業部開発担当の岸山博文氏と0083ガンプラ対談をしてもらうことにした。
その舞台は25年に渡ってガンプラを生産し続けてきた、バンダイ・ホビー事業部静岡工場。プラモデルの成形工場としては30年以上の長い歴史を持つこの場所も、来年には新しい工場に移ることが決定している。旧工場に名残を惜しみつつ、行われた“ガンプラのいい話”は必見!。
現工場 完成模型
左が現工場。右が新工場の完成模型。
新工場でガンプラはさらなるグレードアップを果たすのか。
工事中の新工場を訪れる今西監督と井上プロデューサー。
ここが、ガンプラの新たな殿堂となるのだっ!

岸山 今西 井上
GP01とGP02ですが、初年度は30万個を売り上げるヒット商品になったんですよ。それだけ作品も愛されていたということですよね。(岸山) 今度はこれを借りて逆にCG化することでいろいろと見せてみたいと思ったりしちゃうね。プラモにできないCGを目指して(笑)。(今西) 「『0083』はコアなファンが多いと思うので、色を塗りやすいように余計な色を入れていません」って。うまいこと言うな~と(笑)。(井上)

今西: バンダイ静岡工場が新しい大きな工場に移転するということで、その前に見せてもらえればと思って来てみました。入り口の製品サンプルが並んだショーケースを見てもたくさんのプラモデルが並んでいて歴史を感じますね。バンダイさんの工場は、ずっとここなんですか?
岸山: 元々は、今井科学という模型メーカーの工場だったのですが、今井科学が倒産してしまったので、その工場を買い取ってバンダイ模型としたのがここの始まりです。確か今井科学は1969年頃に倒産していますから、35年以上の歴史があるわけですね。
今西: すごい歴史があるんですね。そういう意味では、名残惜しいですね。以前ここに訪れたのは、確か『ガンダムイボルブ4』の頃ですよね。そこで、開発中のHGUCのデンドロビウムを見せてもらって、作品の打ち合わせをしたのを覚えているんですが。
岸山: そうです。ウェポンコンテナのギミックの試作を見せて、機構などの話をして。その後、より完成形に近い試作をいろいろとチェックしてもらいましたね。
今西: こんな大きなアイテムがプラモデルになってしまったわけですが、元々『機動戦士ガンダム0083』のプラモデルシリーズが展開される予定ってあったんですか? OVA制作時に、こちらはそうした商品展開に関与していなかったので詳しく知らないんですが。
岸山: 当時で言えば、劇場版の『機動戦士ガンダムF91』のシリーズを主軸に置いて商品開発をしていました。ガンダム関連の作品が2媒体同時に動いたのも初めてでしたし、我々としては「歴史の新しいものに力を入れよう」という雰囲気もあったので、メインは『F91』になりましたね。今は、HGUCやMGといういくつかのシリーズを同時に動かすことができますが、当時は無理でしたね。そこで、『機動戦士ガンダム0083』は、ガンダム試作1号機(以下、GP01)と試作2号機(以下、GP02)という、決して多いとは言えないラインナップでのスタートとなりました。ただOVAということで、ソフトの展開期間が長かったことも、模型の商品展開としては都合がよかったですね。今の模型開発ではほとんどないんですが、当時は設定にいかに忠実に再現できるかが重要で、デザインを担当された河森正治さんの設定画に重きを置いていましたね。
井上: あの当時、すでにガンプラは多色成形が盛んな時期だったのに、箱を開けたら色数が少なかったのが印象深いですね。
岸山: そうですね。白と青の成形色で構成されていて、赤や黄色がなかったですからね。
井上: 「どうして、多色成形じゃないの?」って聞いたら、「『0083』はコアなファンが多いと思うので、色を塗りやすいように余計な色を入れていません」って。うまいこと言うな~と(笑)。
岸山: よく覚えていますね(笑)。でも、そんなGP01とGP02ですが、初年度は30万個を売り上げるヒット商品になったんですよ。それだけ作品も愛されていたということですよね。そういった反響の良さと、劇場版として再編集された『機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』の公開にタイミングを合わせる形で『0083』関連アイテムの拡充を図ることができたんです。そこで、GP01のフルバーニアン、ガーベラ、ステイメンの3アイテムが追加されて、商品仕様的にもグレードアップがされましたね。
井上: 多色成形になって、プラモデルとしての完成度もかなり高くなりましたよね。
岸山: そうですね。その後、ご存じだと思いますがマスターグレード(以下、MG)シリーズが今から約10年ほど前にスタートしまして。これは、みなさんの心の中にイメージに合わせる形でガンダムのプラモデルを見直すということで始まったシリーズだったので、過去の商品でフラストレーションが高いものが初期の商品化ラインナップに登ることが多くて、『0083』関連のモビルスーツもそこに含まれていたわけです。商品化のデザインワークスという形でカトキハジメさんも加わっていたので、GP01ならば地上用と宇宙用の換装という機能をいかに成立させるかを検討しながら商品化を進めていったわけですね。そこで、映像用の資料をじっくり見るほど理屈にかなってよく考えてデザインされていて、そのこだわりを噛みしめながら商品開発をしたのを覚えていますね。アニメ用には描かれていない部分の解釈に関してもカトキさんに協力してもらうことで、さらに商品としての完成度を高めることもできたのも良かったです。
今西: カトキさんがプラモデル用に描き下ろす画稿というのは、1体あたりどれぐらいになるんですか?
岸山: 物によって違いますが、例えばMGクラスであれば基本となる前後の立ち姿に始まって、内部フレームの形や各部のディテールなんかを含めると1アイテムあたり20カット近くにもなりますね。さらに、複雑な変形機構などがあるとさらに10カット前後増えることもありますし。アニメの設定では不明な部分に、どう理屈付けするかがカトキさんの得意なところで、MGもそういった要素が加わって商品レベルが上がっていったんです。
井上: そうした流れが、この大きなデンドロビウムにつながっていくわけですね。やっぱり、これはOVA制作当時ではあり得ないアイテムだったんですよね。
岸山: もちろん(笑)。当時は、本当に驚きましたよ。設定が上がってFAXが送られてくるたびにどんどん大きくなっていって……。こちらサイドとしては、小さくして欲しかったんですけど(笑)。
今西: プラモデルになるなんて思ってもいなかったですからね(笑)。
井上: 設定を考えている時に「プラモデルにできないモノを作ってやる」ってハッキリ言ったじゃないですか(笑)。
今西: そんなこと言ったっけ?(笑)
井上: 真ん中のガンダムはプラモデルになるかもしれないけど、周りも作ろうと思ったら大変なことだろうなと思いましたね。でも、実際に商品になっているわけですから。ある意味、設定も商品も常識を越えたものですよね。
岸山: 当時から、モビルアーマーをプラモデル化する際の1/550スケールでの展開は考えていて、ホビーショーではそのスケールに合わせた試作品を展示していたんですよ。ただ、実際にどれだけ売れるのか判らなかったので、OVA展開中には商品化することができなかったんです。でも、その後MGがあり、それを受けて1/144スケールのガンプラをリニューアルするHGUCというリーズナブルな価格でプラモデルを楽しめるシリーズも始まり、そのモビルアーマー版という形でやっと1/550スケールのデンドロビウムを発売することができたんです。
MGでGP01やGP02を商品化した時に判ったことなんですが、『0083』のモビルスーツというのは、他のシリーズに比べて非常にメカを愛するファンからの支持が高くて、立体化の要望の声も大きかった。そういう人たちの究極の願いというのが、デンドロビウムの立体化だったんです。
それは、1/550スケールで、ノイエ・ジールも合わせて発売されることで立体化に関するフラストレーションは少しだけ解消されて、評価も受けました。そうした流れの中からHGUCでステイメンの商品化の順番が回ってきまして、そこでホビー事業部としてもHGUCの持つ可能性を見せたいという思いもあったんです。MS IN ACTION!では、ビグザムが商品化されたりして、次にどんな大型アイテムが出るのかお客さんが夢を膨らませていた風潮があって、ホビー事業部としてもそこにどんなアイテムを提示するか模索している時期だったので、タイミング的に1/144スケールでのデンドロビウムの商品化にはうってつけだったんです。こうした流れで、「プラモデル化できない」と提示された壁を越えることはできたんですけどね。
今西: こうして、OVA製作後数年経って立体化されたプラモデルを見ると、今度はこれを借りて逆にCG化することでいろいろと見せてみたいと思ったりしちゃうね。プラモにできないCGを目指して(笑)。
井上: また、挑戦? まあ、ホビー事業部的にもいろんなことに挑戦したほうが技術的にもいいんでしょうけど。
岸山: そうですね。まさに「こんなものができるワケないじゃん」とか「これができたらスゴイよね」というところは、ユーザーにとっても価値観が発生するポイントですからね。
今西: ということで、今度新しい工場に移ると、やれることはいろいろと広がって行くんですか?
岸山: どうなんでしょうね? 設備や人材が大きく変わるわけではないので、何とも言えないですが。
井上: 例えば、より大きな商品の開発ができるようになるとか?
岸山: ……って、どういうことですか?
井上: だって、このデンドロビウムはHGUCでしょ? MGでもステイメンが出てるんだから(笑)。新工場で大きくなるわけですし、どうです、この際。
岸山: ま~た何か言ってるよ(笑)。よかった、パーフェクトグレードはGP01しか出してなくて!(笑)

ホビー事業部プロフィール
1969(S44)年11月 旧今井科学より清水市西久保に工場を取得。
サンダーバードや昆虫等のプラモデル生産を開始
1971(S46)年5月 「株式会社バンダイ模型」を設立(資本金20百万円)
1977(S52)年7月 「宇宙戦艦ヤマト」のプラモデル発売
1980(S55)年7月 「機動戦士ガンダム」のプラスチックモデルを発売
1980(S55)年12月 袖師町(現在の場所)に成形工場を建設
1981(S56)年12月 成形工場に隣接して金型工場を建設
1982(S57)年7月 多色多重成型機を模型業界初めて導入
1984(S59)年10月 ガンダムのプラモデルシリーズ出荷累計1億個突破
1985(S60)年11月 CAD(コンピュータ設計)システム導入
1989(S64)年4月 「SDガンダムBB戦士シリーズ」発売
1997(H9)年6月 品質保証システムの国際規格“ISO9001”認証取得
1998(H10)年4月 「バンダイ静岡ワークス」に名称変更
2000(H12)年4月 本社販売部門と事業部統合して「ホビー事業部」になる
2002(H14)年11月 “ISO9001:2000”へ移行終了

岸山プロフィール
1987年バンダイ入社。HGガンダムよりガンプラを担当。
25年のガンプラの歴史のうち、実に17年間かかわる。
ガンプラ以外にも、パトレイバー、エヴァンゲリオンを始め多くのキャラクターを手掛ける。